公益財団法人 新潟県保健衛生センター

健康げんきエッセイ(1)眼科検診のすすめ

健康エッセイ

このエッセイシリーズは、当財団の健康診断などに携わっている医師・医療専門職・事務職などのスタッフが、日頃感じていることをリレー式に書き綴ったものです。 その第一回は、理事長の体験に基づく「検診のすすめ」です。

眼科検診のすすめ

目の手術に込める思い

数年前の年の暮れに、新潟大学病院の眼科で両目の手術を受けました。まず、左目の「緑内障」の手術を行い、1週間おいて右目の「白内障」の手術を行って、約2週間の入院生活でした。右目については、すでに緑内障の手術済みですから、これで「緑」と「白」の両方の処置を行ったことになります。

目の手術は、部分麻酔で行われますから意識はシッカリしています。ぼんやりとですが、目の前の動きも少し分かります。手術台の上で、それなりの緊張を感じながら、時折、深呼吸し、覚悟を決めて、じっと手術が終わるまで堪えるしかありません。最後に「無事に終わったよ」と医師から声をかけられたときは、やっぱり、ホッとします。

目の良い人には、まったく縁のないことですが、大学病院のような専門の医療機関に入院してみると、こんなにも目の悪い人がいるのか、と思うほどに大勢の入院患者がいます。患者の多くは「見えるか、見えないか」の瀬戸際に立っていますから、さまざまな思いが交錯して、人間模様が展開されます。同室の人たちと話をしていると、異口同音に「もう少し早く発見していれば、こんなに悪くならなかったかもしれないのに…」という言葉が返ってきます。

検診の仕事に携わっている立場からすると、もっと、目の検診に力を入れるべきだ、ということを痛切に感じます。特に、緑内障の場合は、失われてしまった視神経は、今の医学では二度と回復しませんから、手術は、これ以上の進行を止めるための効果しかないのです。それであっても、目の手術には、「ここで止まって欲しい」という思いが強くこもっています。

「視野が狭い」ということ

眼科病室の話題のなかの一つは、「運転免許は更新できるのかな」です。

地方に住んでいると、自動車の運転免許は必需品で、車は一家に2台、夫婦それぞれが車をもっているのが当たり前になっています。人の少ない地域になればなるほど公共の交通機関は限られていますから、もし、何らかの理由で運転免許がなくなってしまうと、通勤も買い物も、生活そのものが大きく制約されます。

私の場合は、交差点の直前の信号機が視野に入らなくて、赤信号を見落としそうになったことがあり、「車の運転は危険だ」と悟った瞬間に、スパッとやめてしまったのですが、その結果、生活の範囲が、ぐっと小さくなってしまいました。職場への通勤はバスに切り替え、どうしても車が必要なときは、妻の運転に同乗します。おそらく、内心では「危険だ、怖い」と感じていても、無理に車の運転を続けている眼科疾患のドライバーは、かなりの人数いるだろうと推察しています。

視野欠損を自覚するまで

私の手元に、40歳ころから約30年間以上の人間ドックの記録が残っています。これを改めて見直してみると、眼圧は、ずっと16~19くらいで正常範囲とはいうものの、やや高値。眼底検査で視神経乳頭の圧迫、陥凹があり、ドックの検診医は、総合判定で「緑内障が疑われます。眼科で詳しい検査を受けてください」という指摘を何回もしていました。当時、私はコンタクトレンズの処方のために、3か月毎に近所の眼科の開業医さんのところに通院していました。時々、旧式の視野検査もしていたのですが、まったく自覚がなかったため、「緑内障という病気が如何なるものであるか」調べることもせずに、開業医さんに言われるまま目薬の点眼をするのみでした。

50歳ころになって、近所の馴染みだった開業医さんが高齢で閉院することになり、別の医療機関に移らざるを得なくなったときが転機でした。二転三転し、行き着いた先の新潟大学病院で、緑内障のしくみ、目薬の限界や手術のリスクなどを詳しく説明してもらって、ようやくにして自覚しました。このままだと、とても危い。

眼科検診を普及させよう

私が仕事している健診機関は、10年くらい前から、人間ドックの標準の検査項目のなかにFDTスクリーナーという機器による簡易視野検査を加えています。全国の他の健診機関においても、人間ドックのオプションに視野検査を取り入れているところもあります。

思い起こすと、私たちの時代は、目を酷使するマイナスの要素に取り囲まれていました。昭和30年代からのテレビで育った時代。夜遅くまで受験勉強をしていた時代。仕事の残業でコンタクトレンズを長時間使っていた時代。緑内障手術の体験者としては、緑内障になると、もしかしたら視力が失われるかもしれない重大さについて、もっともっと知ってほしいです。それとともに、視野に着目した眼科検診の必要性について、がん検診と同じように、公的機関による住民に向けた働きかけが大事であると思っています。

この記事を書いた人

当財団理事長

安藤哲也